泊舩寺 (品川昔話)

泊船寺(はくせんじ)

泊舩寺の夜泣き芭蕉像

江戸時代、松尾芭蕉は泊舩寺(東大井4丁目)の住職と親交が深く、境内にある牛耕庵をとても気に入っていたそうです。元禄7年(1694)、芭蕉が亡くなるのと同じころ、牛耕庵の古池の横にあった、芭蕉が好んだ柳の古木が枯れてしまいました。約100年後、俳人石河積翠がその柳の古木で芭蕉座像を彫り、寺に安置したと伝えられています。

 ある夜、寺から芭蕉座像が盗まれてしまいました。みんなで手を尽くして探しましたが見つかりません。盗まれた像は、古道具屋に売られていましたが古道具屋の主人はその像が、泊舩寺から盗まれた芭蕉像とは知りませんでした。その日の真夜中、「おい!おい!」と、どこからか人を呼ぶような声に、店の主人は目を覚ましました。周りに人は誰もいません。「気のせいかな」と思って眠ろうとしましたがしばらくすると、また、声が聞こえます。表の扉を開けてみても、誰もいません。おかしいなと思いながら、布団に潜り込むと、やはり声がするのです。主人が声のする方へたどっていくと、どうやらその日に買った像から聞こえてくるようです。おそるおそる像に近づいていると、像は目に涙をうかべて、「わしは、はやく寺に帰りたい」と、かすかな声で言っています。次の日も、また次の日も、同じように泣くので、主人が調べてみると、泊舩寺から盗まれた芭蕉像だと分かりました。可哀そうに思った主人は、ある夜、芭蕉像を白い布に包んで、泊舩寺の門の所にそっと返しておきました

翌朝、寺の小僧さんが、門前で白い布に包まれた芭蕉像を見つけて、元の場所に戻しました。これを聞いた村人たちは寺に集まり、「芭蕉様が戻ってきたぞ」と、みんなで喜びました。

*平成20年3月1日 第1662号広報品川より